普段、街中で和服を着ている人を見かけることがほとんどなくなり、正月や成人式、卒業式などの特別な服装となってしまった。同じ街中で目にする大手ハンバーガーチェーンは、厳しい状況の外食産業でもひとり勝ちと言われる食の西洋化の代表例であろう。一方で、個人の住まいは、フローリングが一般的となり、和室よりも洋室が主となってしまった。
ところが、このように衣食住の西洋化が進むなか、今も昔も変わらない日本人的な行動パターンがある。それは、家に帰ると玄関で「靴を脱ぐ」行為である。
どこの家でも当たり前のように玄関で靴を脱ぎ、スリッパ、または素足で私的な生活を過ごす。言わば靴の着脱によって公私の切り替えを行っているのである。この行為は、いくら日本人の生活に西洋化が浸透、定着したとしても、変わらずに存続していくだろう。
時代劇でたまに目にする光景だが、旅籠では玄関で旅人の足を洗ってから素足で館内に上げていた。
しかしながら、現代の旅館では、ホテルのように靴を履いたまま客室に案内する形式が主流だ。部屋で浴衣に着替えスリッパに履き替えて館内で過ごすことになるが、素足になっても先程土足で歩いた床なのでいま一つくつろいだ気にならない。素足になることで公私の切り替えができるととらえるなら、「くつろぎ」がテーマの宿にとってこの行為の提供はこだわるべき重要な点に思えてならない。
また、素足となると床材も限定されるが、一般的には畳や板敷きで竹タイルや籐マット、イグサカーペットというのもある。板敷きの場合には、清掃などのメンテナンスが容易だが、冬場の冷たさを解消するため床暖房にしたり足袋を用意したりする必要がある。
加えてくつろぎ効果と共に、素足の場合は別のメリットもある。防汚効果である。従業員も素足で歩くので汚れを気にして自ら注意をするようになり汚れやゴミが少なくなるのである。
さらに、お客さまにとっては、館内どこでも靴やスリッパの履替えが不要(トイレは除く)でわずらわしさがなくなり開放的になるという効果も期待できる。
ただし、ここで一番の課題は玄関で預かる靴の整理だ。収容の少ない旅館ならともかく、大型旅館となると下足番が必要となり、チェックアウトが重なると玄関が混雑する恐れがある。
日本のホテルも客室に玄関を設け、室内を素足で過ごせるようにしたらと常々感じる。特に、ビジネスホテルならその効果は大きい。なぜなら、スリッパが常備されていても、風呂上がりや寝起きは面倒で素足で歩いてしまう人は私だけではないと思うからだ。
(観光経済新聞2011年10月22日掲載)
企画設計室 高橋 慎一郎